ビジネスシーンにおいて、相手を敬う気持ちから言葉を丁寧にしようと意識しすぎるあまり、かえって不自然な敬語になってしまうことがあります。

その代表例が、一つの語に対して同じ種類の敬語を重ねて使ってしまう「二重敬語」です。

特に「おっしゃられる」や「拝見させていただく」といった表現は、日常的に耳にすることが多いため、間違いだと気づかずに使っている方も少なくありません。

本記事では、二重敬語の基本的な考え方から、間違いやすい具体例、そしてスマートな言い換えマナーについて詳しく解説します。

正しい敬語をマスターすることで、信頼されるビジネスパーソンとしてのコミュニケーション能力を磨いていきましょう。

二重敬語とはどのような状態を指すのか

二重敬語とは、一つの語について、同じ種類の敬語を二重に使ってしまうことを指します。

例えば、尊敬語に対してさらに尊敬語を重ねたり、謙譲語に対してさらに謙譲語を重ねたりする状態です。

日本語の文法上、二重敬語は「適切ではない表現」とされています。

過剰に丁寧な言葉遣いは、相手にまどろっこしい印象を与えたり、慇杄無礼(いんぎんぶれい)に感じさせたりする恐れがあります。

敬語はシンプルに使うのが最も美しく、相手への敬意が正しく伝わると心得ておきましょう。

なぜ二重敬語を使ってしまうのか

私たちがついつい二重敬語を使ってしまう背景には、「より丁寧に伝えたい」という心理的な要因があります。

特に目上の人や重要なクライアントと接する際、敬語が一段階だけでは足りないような不安を感じてしまうのです。

また、周囲の人々が間違った敬語を使っている場合、それが「正しいマナー」であると誤認して定着してしまうケースも多々あります。

正しい知識を身につけることで、こうした心理的な不安を解消し、自信を持って言葉を選べるようになります。

間違いやすい二重敬語の代表例:おっしゃられる

ビジネスの現場で最も頻繁に耳にする間違いの一つが「おっしゃられる」です。

この表現がなぜ二重敬語に該当するのか、その構造を分解して考えてみましょう。

「おっしゃられる」の構造と問題点

「言う」の尊敬語は「おっしゃる」です。

そして、動詞の語尾に付ける「~られる」も、尊敬を表す助動詞です。

つまり、「おっしゃる」という尊敬語に、さらに尊敬の「れる・られる」を付け加えているため、二重敬語となります。

これは「尊敬 + 尊敬」という過剰な組み合わせであり、文法的には誤りとされています。

正しい言い換えマナー

「おっしゃられる」を正しく直す場合は、シンプルに「おっしゃる」、あるいは「おっしゃいました」とするのが正解です。

「部長がそのようにおっしゃっていました」と言えば、十分に敬意は伝わります。

もしどうしても丁寧さが足りないと感じる場合は、「おっしゃる」という言葉自体の響きを大切に使いましょう。

無理に言葉を足すよりも、適切な語彙を一つ選ぶ方が洗練された印象を与えます。

間違いやすい二重敬語の代表例:拝見させていただく

もう一つの代表格が、自分の動作をへりくだって表現する際の「拝見させていただく」です。

メールや資料の確認報告などで多用されがちですが、これも厳密には二重敬語の類に含まれます。

「拝見させていただく」が不自然な理由

「見る」の謙譲語は「拝見する」です。

これに、「させてもらう」の謙譲表現である「させていただく」が組み合わさっています。

「拝見」という言葉自体にすでに「見せていただく」という意味が含まれているため、さらに謙譲表現を重ねる必要はありません。

ただし、現代のビジネスシーンでは非常に多く使われているため、完全に間違いと切り捨てられない場面もありますが、本来は過剰な表現であることを理解しておきましょう。

「拝見する」をスマートに使うには

最も適切な表現は、「拝見しました」、あるいは「拝見いたしました」です。

「いたしました」は「する」の謙譲語「いたす」に丁寧語「ました」がついた形であり、二重敬語にはあたりません。

「資料を拝見いたしました」と伝えるだけで、謙虚さと知的な印象を同時に与えることができます。

「させていただく」という言葉は、相手の許可を必要とする場合や、その恩恵を受ける場合に使うのが原則です。

単に自分の行為を伝えるだけであれば、「拝見いたしました」で十分に丁寧な報告となります。

他にもある!ビジネスで使いがちなNG二重敬語リスト

「おっしゃられる」や「拝見させていただく」以外にも、ついつい使ってしまいがちな二重敬語は多く存在します。

ここでは、代表的なNG例と正しい言い換えを一覧表で確認してみましょう。

間違い(二重敬語)正しい言い換え解説
ご覧になられるご覧になる「ご覧になる(尊敬語)」+「れる(尊敬)」の重複
お越しになられるお越しになる「お越しになる(尊敬語)」+「れる(尊敬)」の重複
伺わせていただきます伺います「伺う(謙譲語)」+「させていただく(謙譲)」の重複
お読みになられるお読みになる「お読みになる(尊敬語)」+「れる(尊敬)」の重複
お求めになられるお求めになる「お求めになる(尊敬語)」+「れる(尊敬)」の重複

いかがでしょうか。

特に「ご覧になられる」や「伺わせていただきます」などは、日常的に使ってしまっている方も多いのではないでしょうか。

これらの表現は、耳慣れているために違和感を抱きにくいですが、言葉のプロや敬語に厳しい年配の方からは「教養がない」と判断されてしまうリスクもあります。

リストにある「正しい言い換え」を意識して、日々の会話やメールに取り入れてみてください。

実は使ってもOK?例外として認められている二重敬語

敬語のルールには例外も存在します。

本来は二重敬語の形をしていても、社会的に定着しており、使っても失礼にならない(あるいは推奨される)表現があるのです。

習慣として定着している敬語

例えば、「お召し上がりになる」という表現です。

「食べる」の尊敬語は「召し上がる」ですが、これに「お~になる」という尊敬の形を重ねた二重敬語です。

しかし、この言葉は文化審議会の「敬語の指針」においても、習慣として定着しているため問題ないとされています。

同様に、「お亡くなりになる」も一般的に使われる正しい表現として認められています。

「謙譲語Ⅱ(丁重語)」と「させていただく」

「いたす」「参る」「申す」といった表現は、謙譲語の中でも「丁重語(謙譲語Ⅱ)」と呼ばれます。

これらと「させていただく」を組み合わせた場合、厳密には二重敬語的な響きになりますが、相手に許可を得るニュアンスを強めたい場合には許容されることがあります。

ただし、基本的にはシンプルに「いたします」「参ります」とする方が、言葉の通りがスムーズです。

文法的な正しさだけでなく、「その場にふさわしいかどうか」という観点で言葉を選ぶ柔軟さも、大人のマナーと言えるでしょう。

敬語のミスを防ぐための3つのポイント

二重敬語を避け、正しい敬語を使いこなすためには、以下の3つのポイントを意識してみてください。

1. 敬語の種類を整理して覚える

まずは、「尊敬語(相手を高める)」「謙譲語(自分を下げる)」「丁寧語(言葉を丁寧にする)」の3つの区分を明確にしましょう。

特に、動詞そのものが敬語の形を持っている「特定形(おっしゃる、いらっしゃる、召し上がる等)」を優先的に覚えるのが近道です。

特定形がある場合は、わざわざ「お~になる」や「~れる・られる」を付け加える必要がないため、二重敬語のミスを劇的に減らせます。

2. 「短くシンプルに」を心がける

敬語が苦手な人ほど、言葉を長く複雑にする傾向があります。

「おっしゃられる」よりも「おっしゃる」、「拝見させていただきます」よりも「拝見しました」の方が、リズムが良く聞き取りやすいものです。

迷ったときは、「余計なものを削ぎ落とせないか」と考えてみてください。

一語で完結する敬語を使いこなせれば、ビジネスにおける発言の説得力も高まります。

3. 声に出して違和感がないか確認する

メールを作成した後や、商談の準備をする際に、自分の言葉を一度声に出してみましょう。

二重敬語は言葉の重なりが多いため、口に出すと「くどい」と感じることが多いはずです。

「~をさせていただきたく存じます」といった表現が連続すると、聞き手は内容よりも言葉の過剰さに意識が向いてしまいます。

流暢で自然な響きになっているかどうか、自分の耳でチェックする習慣をつけましょう。

まとめ

今回は、ビジネスシーンで間違いやすい二重敬語、「おっしゃられる」や「拝見させていただく」を中心に解説しました。

相手を尊重する気持ちは大切ですが、それが過剰な二重敬語となってしまうと、かえって真意が伝わりにくくなることがあります。

敬語の基本は、相手との距離感を適切に保ちつつ、誠実さをシンプルに表現することにあります。

まずは「おっしゃる」「拝見する」といった正しい形を覚え、無意識に使っていた過剰な表現を一つずつ修正していきましょう。

正しい敬語を身につけることは、あなたのビジネススキルを一段引き上げ、周囲からの信頼を深めることにつながります。

日常のコミュニケーションの中で、より美しく正確な敬語マナーを実践していきましょう。